鳥乙女と流れ星魔法使い−ながれぼし−/サンプル
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雲ひとつない夜空に、星が尾を引いて流れていきます。
シュー、シュー
一つ、二つと流れた星は、消えることなく空をすべると、やがて地上に降り立ちました。
星は淡く発光しながらその姿を変えると、ひそひそと話をし始めました。
「この近くにいるのよ。間違いないわ」
「サウターのやつ、無事でいるのか」
一人は若い女性の、もう一人は太っちょのおじさんの魔法使いです。二人とも、ルークと同じ星柄のとんがり帽子をかぶっています。彼らは一体何者でしょう。
女性の魔法使いは勇み気味に、
「とにかく手分けして探しましょう」
「よし、わかった」
二人は、さっと闇の中に姿を消しました。
あの恐ろしい事件から数日がたちました。
鳥乙女とルークは、また旅を始めていました。
記憶を取り戻す、今までと変わらない旅のはずですが、なにやらルークの様子が変です。浮かない顔で、ぼんやり……。
それはなぜか。少し時間を戻してみましょう。
夜空に星が二つ流れたあの日、鳥乙女とルークは、この街の最後の思い出にと大時計台の上で語らっていました。
「あら、流れ星だわ」
指差す先に星が二つ、他の星の倍はありそうなくらい光が大きく見えました。
ルークはどきりとしました。
(なんだ?頭が、ずきずきする……!)
「どうしたの?ルーク」
頭を抱えてうずくまるルークに、鳥乙女はうろたえるばかり。こんな風に苦しむ彼を見るのは初めてで、どうしたらいいのか分からずにいました。
(記憶が……、記憶が戻るのか……?)
この記憶の復活は、今までとは違い苦痛を伴うものでした。
頭の中で、朝霧のようなもやが渦巻き、失われていたものが溢れだしてきます。
それは次第に形作り、色を持ち、音をかなで、鮮やかな記憶としてルークの中に蘇ったのです。
「思い出した……、思い出したぞ。全部!」
「本当?ああ、よかった!」
「あ、ああ……」
ついに取り戻した記憶に、鳥乙女は自分のことのように喜びました。けれど、ルークの表情はどこかさえません。
「うれしくないの?」
「いや、そんなことはないよ……」
ごまかすように、ルークは笑いました。それが今も続いているのです。
時折見せる暗く考え込む表情に、鳥乙女は心配でしかたがありません。何かしたくても、何も話してくれないルークに対してできることはなく、鳥乙女は自分の無力さを感じるばかりです。
(ルークは、どうしてあんなに暗い顔をするの?どうして何も言ってくれないの?どうして、どうして……。)
隣で眠るルークの横顔を見て、鳥乙女は何度もため息をつきました。
とうとう我慢できなくなり、ルークに疑問をぶつけました。
「ルーク、教えて。あなたは何を考えているの?どうしてそんなに暗い顔をするの?」
「それは……」
ルークは言い渋りました。話すことをためらっています。
「サウター!」
そこへ、声を発し、ちかちかと光るものが二人のそばへ舞い降りてきました。
光るものは、瞬間激しく発光すると、二人の人間に姿を変えました。そう、あの魔法使いたちです。
「サウター。ようやく会えたわ」
「ずいぶん探したんだぞ」
魔法使いたちは嬉しそうに駆け寄ると、口々に言いました。
思いがけない来訪者に戸惑いつつも、ルークの表情には喜びの色が見えます。
鳥乙女は、ぽつんとその様子を見ていました。喜び合う三人の姿に、取り残されたように心が寒くなりました。
ルークは鳥乙女をそばに呼ぶと、ようやく自分の正体を明かしました。
「僕の本当の名前は、サウター。空の上にある“モコ”という国に住んでいたんだ。あの日、僕は彼らと隣の国に行く途中だったんだけど、誤って地上に落ちてしまった。そう、君の住む島に」
鳥乙女は、その話をまるでおとぎ話のように聞いていました。コリンダが言っていた空の上の国の話は本当だったのです。
そうは言っても、実際に彼が天上人だということを、鳥乙女は信じたくありませんでした。
(だって、帰ってしまったら、もう会えなくなってしまうんじゃないの?)
ルークは言いませんでしたが、天上界の住人には、地上に降りてはならないという決まりがありました。
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