鳥乙女と流れ星魔法使い−ほのお−/サンプル

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 今日もうららか、よいお天気。
 二人は船をとめて、魚を釣っていました。
♪「でっかいでっかい魚がいいの。生でも焼いても煮付けても。おっきなおっきなクジラもいいの。背中に乗ったら楽ちんよ。でーも、ビロロン。わかめはイヤイヤよ。からまっちゃって、さあ大変」
 釣りざおを動かしながら歌う鳥乙女の声にあわせて、ルークは軽快に合いの手を入れます。ところが、すぐに二人とも虚ろげにため息をつきました。
「お魚、飽きちゃったわね」
 航海を始めてから、食事のほとんどは魚でした。いくら新鮮でおいしいとはいえ、沢山続くとうんざりです。
「次の陸地に着いたら、何が食べたい?」
 船底に寝転んで、ルークが聞きました。鳥乙女は、そうねと一言つけて、
「わたしは果物がいい。甘酸っぱいみかんが好きよ」
 うっとりとした表情で、おひさま色のみかんを思い浮かべました。
「ふうん、みかんか。お、引いてる引いてる」
 強い引きにルークは急いで起き上がると、さおを引き上げました。これは大物が期待できそうです。が、目の前に現れたのは……、
「わかめだ」
 二人はがっかり。しかし、空腹には勝てませんので、今日の昼食はわかめになりました。
 夕方近く、遠くにうっすらと陸地が見えました。明日には上陸できそうです。
「明日に備えて、今日はここまでにしよう」
 イカリをおろし、二人はゆっくりと休みました。
 翌日、陸地に向かう大型船と会いました。”ライラック号“と紫色の船体に書かれた船は、どうやら貨物船のようで、箱に入った沢山の荷物を積んでいました。二人が手を振ると、船員の一人が、
「島に上がるなら、港に船をつけるんだぞ」
「わかったわ。ありがとう」
 お礼を言うと、船は汽笛を鳴らして先に行ってしまいました。
 着いたのは、メラメラ島という島でした。港は二人の進んできた方向から見て右手側にあり、すでに大小様々な船がとめてありました。波止場では、さっきの貨物船が荷下ろしをしています。そこを過ぎると、にぎやかな市場へ出ました。
 市場には、島でとれた野菜や肉魚、それに鳥乙女の好きなみかんも山のように積んでありました。
「みかんがこんなにいっぱい!すてき!」
 大好きなものを目の前にして、鳥乙女は顔をほころばせました。
 さわやかな匂いを胸いっぱいに吸いこんでいると、数字の書かれた札が鳥乙女の目にちらりと映りました。はっとして振り向くと、悲しげな面持ちでルークに言うのです。
「わたしたち、お金がないわ」
 えっと、ルークは不思議そうな顔をしました。今までの旅でお金がかからなかったので気がつきませんでしたが、二人はお金を持っていなかったのです。
「わたし、ずっとお金の必要ないところで暮らしていたから忘れていたけれど、物を買うにはお金がいるのよね」
「そうか、それは弱ったな」
悩んでいると、すぐそばの屋台で、おばさんが肩こりで辛そうにしているのが見えました。鳥乙女はひらめきました。
「ねえ、ルークの魔法でみんなを元気にしてあげるのはどう?もちろん、ただってわけじゃなくて……、ね?そしたら、ほら。みかんが買えるわ」
 まさに、好物の智恵といったところでしょうか。お金が手に入るかはわかりませんが、二人はやってみることにしました。
 この島の通過は、ペルペルです。魔法一回の値段は、百ペルペルに決めました。(ちなみに、みかん一個の値段は三十ペルペルでした。)
 早速、屋台の端から端まで声をかけて、魔法の売りこみです。
「すっごくよく効く魔法なの。心も体も、すっきりうっとりよ」
 みんなは半信半疑でしたが、日ごろの疲れがたまって、肩はがちがち、腰も痛かったので頼むことにしました。
 鳥乙女は屋台の人たちを一ヶ所に集めると、ルークに合図しました。
「ロラウ、エテスターゼ」
 ルークが杖を掲げ呪文を唱えると、辺りにまばゆい光が降り注ぎました。たちまち、疲れもすっきり消えて、みんな大喜びです。
「助かったよ。魔法ってのはすごいんだな」
 お金も沢山集まり、作戦は大成功をおさめました。念願のみかんも手に入り、二人は久しぶりに、船以外の場所に宿をとることにしました。
 島で一番安い宿でしたが、部屋はきちんと清潔にしてありました。
 鳥乙女は、窓側のベッドに腰かけると、外の景色を眺めました。この島と橋でつながった離れ小島が、青い海に浮かんでいます。
「あの離れ小島には、火の神殿があるんだって」
 遅れて部屋に入ってきたルークが、帳場で聞いた話を教えてくれました。

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