鳥乙女と流れ星魔法使い

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 海に浮かぶ小さな島に、鳥乙女は住んでいます。
 今日も、いつものように、満天の星空を眺めていました。
  シュー、シュシュー
 星がいくつも流れていきます。
 その中に、ひときわ大きくて、赤くかがやく星がありました。
「あんなに大きなお星さま、初めて見た!」
 鳥乙女がうれしそうにその星を眺めていると、突然、星はくるくると回り始めました。
「あ!大変。落ちてくる!」
 夜空に長く尾をひいて、星はどんどん島に近づいてきます。そして、
  どーんっ
 ものすごい音がして、地面が揺れました。
 鳥乙女は、急いで、星が落ちた場所へ向かいました。
 原っぱには土煙が上がっていましたが、肝心の星は見当たりません。
「へんね……。きゃっ」
 何かをふんづけて、鳥乙女は思わず声を上げました。
「帽子?」
 ふんづけたのは、魔法使いがかぶるような、つばの広いとんがり帽子でした。紺色の布地に、星もようがついて、まるで夜空のようです。
 拾いあげようと手を伸ばすと、ムクムクムク!と、帽子が動き、
「ああ、びっくりした!」
 男の人が出てきたではありませんか。男の人の髪の毛は長く、赤く燃える炎の色をしています
「きゃー!おばけ!」
 鳥乙女はおどろいて、しりもちをつきました。帽子から人間が出てくるなんて、夢でも見ているのでしょうか。
「失礼だな。僕はおばけなんかじゃないぞ」
 おばけと言われて、男の人はむっとしました。
「じゃあ、だれなの?」
 おそるおそる聞くと、男の人は偉そうにふんぞり返って、
「よくぞ聞いてくれた。僕は大魔法使いの……」
 そう言ったきり言葉が続きません。
 ついには、頭を抱えると、
「僕は、だれなんだ?」
と、鳥乙女に聞き返しました。
「え?わからないの?」
 帽子から出てきた男の人は、記憶喪失になっていました。本人すら自分のことを知らないので、鳥乙女も困ってしまいました。
 けれど、本当に困っているのは、男の人の方だと思い、
「大丈夫よ。今は無理かもしれないけど、すぐに思い出すわ」
と、はげましました。
 それでも、男の人は、がっくりとうなだれて、ふさぎこんでしまいました。
 鳥乙女は考えた末、
「わたしが、新しい名前をつけるわ。だって、名前がないと不便だものね。記憶が戻るまで、あなたの名前は、えーっと、うーんと……。そうだ!」
 鳥乙女は、ぱんっと、手を叩き、
「あなたは、ルーク。今日から、ルークよ」
「ルーク……。いい名前だね」
 ルークは、ようやく笑顔を見せました。鳥乙女は、ほっと胸をなでおろしました。
「ルークって名前は、ルクルクの花からとったの。幸運のお守りになる花なのよ。だから、あなたにもいい事がある。絶対に思い出せるわ」
「すてきな名前をつけてくれて、ありがとう。早速、ラッキーだな」
 茶目っ気たっぷりに、ルークはウインクしてみせました。
 鳥乙女は、そっと、ルークの手をとると、
「あなたと会えたのは、きっとお星さまのご縁だわ。わたしたち、お友達になりましょう」
「もちろんだとも」
 二人は、よろしくの握手をしました。


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2013.