鳥乙女と流れ星魔法使い−ようせい−/サンプル

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 二人は、今日もてくてくと長い街道を歩いていました。
「そろそろ休みましょうよ」
 すっかり歩みの遅くなった鳥乙女が、疲れきった声を出しました。
「だめだめ。さっき休んだばかりじゃないか。こんなんじゃ、全然、街に着きやしないよ」
 元気のあるルークは、世話を焼いて、鳥乙女の背中を押します。
 それでも、ぺったんぺったん。鳥乙女の足は、なかなか前に進みません。ルークは口をすっぱくして、
「こら、ちゃんと歩くんだ」
「はぁい。でもね、休んだらもっとちゃんと歩けるわ」
「嘘つけ。休んでもこうじゃないか。つべこべ言わず、ほら歩く」
「あーあ、坂道ばっかり。もういや!」
 終わらない坂道街道に、鳥乙女は弱音をはきました。
 文句をたれつつ坂のてっぺんまで上ると、まっすぐ続く下り坂が目に入り、気分が少しだけ軽くなりました。
 街道わきの木の下に、腰を下ろして休憩していると、
  ちろりん
 鳥乙女の耳を不思議な音がかすめました。辺りを見まわしても何もいません。
「どうした?」
「ううん。なんでもない。気のせいみたい」
 きょとんとした顔で、鳥乙女は首を横に振りました。
 坂を下っていると、なにやら雲行きが怪しくなってきました。空を厚い雲が覆い、雨粒が二人の鼻先にはねました。
「どこか雨宿りできる場所を探さないと……」
「あそこは?」
 丁度いい木を見つけ、二人はその下にもぐりこみました。同時に雨は激しさを増し、あっという間に、道に水たまりをこさえました。
「きゃっ!」
 いきなり叫ぶと、鳥乙女はびくりと肩を縮めました。
「なんだ……、うわっ!」
 今度はルークがびくり。首筋に冷たい雨水が落ちてきたのです。
 見上げれば、枝葉の隙間からいくつもの雨粒が降り注いでいました。
「これじゃあ、雨宿りの意味がないな」
「でも、他にいい場所があって?」
 何気なく後ろを振り返ると、どうしたことでしょう。こんもりと茂った森が、二人の背後に現れたのです。
 森は招くかのように、その入り口をぽっかりと開いています。
「こんな森、さっきはなかったぞ」
「 急に現れるなんて、ちょっと変ね。……でも」
 言葉を切って、鳥乙女は目配せしました。
「雨宿りには最高よね?」
 ルークもこくりと頷いて、
「同感。じゃあ決まりだ。入ろう」
 二人は急ぎ足で森に入りました。
 森は二人をのみこむと、霧のようにかすみがかり、雨の中に姿を消しました。
 森の中は明るく、どしゃ降りにもかかわらず雨音ひとつしません。まるで別世界に来たかのようです。
 しばらく進んでいくと、妙に開けた場所に出ました。
  ちろりん、ちろりん
 また、あの音がしました。今度はその正体も一緒です。
『めずらしい。人間だわ』
『本当。だれかが入り口を開けたんじゃなくて?』
 透明の羽に、揺れる触角……。そう、妖精です。
 近くで飛び回る小さな生物は、きゅるきゅると高い声で鳴きながら(二人には、妖精の使う言語がそういう音に聞こえたのです。)二人を眺めているようでした。
 妖精はしばらく飛び回っていると、ルークの前でぴたりと止まり、二人にも分かる言葉で話しました。
「あんた、魔法使い?」
「え?まあ、そうだけど」
「うっそお、本当?じゃあさ、何か魔法見せてよ」
 ルークの袖を小さな体に似つかない力で掴むと、妖精たちは彼を森の奥へずんずん引っ張って行きました。
 妖精たちにされるがまま進んでいくルークの後ろから、鳥乙女は森のことや妖精たちのことなどを質問しましたが、小さな生き物たちはまるで知らんぷり。ルークにばかり話しかけて、ずいぶん嫌な気持ちになりました。
(なによ、いじわる!)
 ひねくれて、鳥乙女は一人で別の道へとそれて行っていましました。
 ぶつぶつ怒りながら歩いていると、茂みの奥に、木の穴に作られた隠れ家のような場所を見つけました。

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