鳥乙女と流れ星魔法使い−よげん−/サンプル

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 農道を歩く二人の両側には、花畑が広がっています。
 丁度、収穫の時期でしょうか。農家の人たちが丁寧に花を切って荷車に積んでいます。
「もうそろそろ街に着くぞ……、多分」
 さっきから地図とにらめっこしているルークが、はっきりしない口調で教えました。
「どんな街かしら。楽しいものあるかしら」
 ぴょこぴょこ、鳥乙女は相変わらずのん気です。
 しかし、その街では、とんでもない事件が二人を待ち受けていたのでした。
 街は大きくお店も沢山ありました。花畑が近いからか、数多くの花屋が軒を連ねています。
 久しぶりの大きな街に浮かれ気分で散策していると、二人は何やらおかしなことに気がつきました。
 人通りが多いわりに、閉まっている店がちらほら。街の人もどこかおどおどしています。
「お休みの店が多いのね」
 立ち寄ったパン屋で、鳥乙女はなんとなしに話しかけました。すると、おつりを渡しながら、店員のおばさんは声をひそめました。
「予言が怖くて逃げ出したのさ」
「予言?」
 理解できない鳥乙女を店の隅っこに連れて行くと、おばさんはさらに小声になって、
「そう。裏通りにね、予言者がいるんだ。そいつがまた恐ろしく不気味な奴で、怖い予言をするのさ。やれ泥棒が入るとか、火事にあうとか。それが当たるのなんのって……。でも信じない人もいるだろ。そうすると、その人に特別な予言をするんだよ」
「……どんな予言なの?」
 つられて、鳥乙女も小声になります。おばさんは、店内にだれもいないことを確かめると、
「死ぬって、言うのさ」
「何ですって!」
 驚いた拍子につい声を張り上げてしまい、鳥乙女は慌てて口を押さえました。
 しーっと、お互いに口元に指を当て合図しあうと、おばさんは続けます。
「いいかい。この話を聞いて嘘だと思っても、口に出しちゃいけないよ。あいつは街のどこで聞いてるか分かりやしないんだから。顔を合わせたら、恐ろしい予言をされちまうんだからね」
 と、ここでお客が入ってきたので、おばさんは仕事に戻りました。鳥乙女は、予期せず聞いた物騒な話に不安を抱きながらも、何気ない顔で店を出ました。
 外で待っていたルークは、鳥乙女が出てくると口をとがらせて、
「遅かったじゃない。待ちくたびれたよ」
「ごめんなさい。この街のこと、色々教えてもらっていたの」
 予言者が……と、言ってしまいそうになり、鳥乙女は口をつぐみました。余計なことは言わないに越したことはありません。
 ルークは、そんなことには全く気づかず、買ったばかりのパンをつまみ食いしていました。
 大通りを進んでいると、丁字路に突き当たりました。左右に伸びる道は細く、裏通りへ続いています。
「道を間違えたかしら」
 二人は宿を目指していたはずが、寂しい場所に出てしまい立ち止まりました。
「でも、この辺りだって言ってたぜ」
 とは言うものの、聞いた場所に宿はおろか、それらしい建物はありません。左右の道を覗いても、塀から落ちる影が地面を染めているだけです。
「どうする?戻る?」
「うーん。とりあえず、ぐるっと回ってみるか。裏にあるのかもしれないし」
 そう言って、二人は薄暗い路地に入っていきました。
 路地を抜けた先の裏通りは、表の大通りと違い、しんと静まり返っています。
 並ぶ店も建物が古く、開いているのかも分かりません。
 どこか陰気な印象を受けるのは、陽の当たらないせいばかりではない気がして、鳥乙女は嫌な気分になりました。
「やっぱり戻りましょう。こっちにはないわ」
 鳥乙女は不安げな声で、ルークに伝えました。彼もそう思ったのか、素直に返事をしました。が、ふいにだれかに声をかけられて、二人は足を止めました。
「お二人さん、旅のお方かい?どうだい、いい予言をしてあげよう」
 声をかけたのは、牛の頭蓋骨頭の不気味な人物でした。全身骨ばかりのくせに、毛皮のコートを着て、手には水晶玉の代わりに大きなぎょろ目玉を持っています。
 近くの店先に陣取っている姿に、ひさしから落ちる影が重なって黒く同化して見え、それがますます彼を不気味に見せています。
 鳥乙女はこの人物が、パン屋のおばさんの言っていた予言者だと、すぐに気がつきました。
「ごめんなさい。せっかくだけど、わたしたち急いでいるの」
 なるべく相手を刺激しないよう断りますが、どうしてか、ルークは興味津々。そこから動こうとしません。
「行きましょうよ……」
「いいじゃないか。やってもらおうや。どれだけ当たるか、試してみたいし」
 その言葉に予言者は、
「占いと一緒にされたら困る。予言はその通りになるんだ。必ずね」
 落ち着いた低い声は、少しの怒りを含んでいました。ルークは、ふうんと鼻で返事をすると、お構いなしに言い放ちます。
「どっちにしても、俺は占いも予言も信じちゃいないぜ。でも、そういうならやってみなよ。予言をさ」
 神経を逆なでする言葉に、予言者は内心腹を立てました。ルークを骨の指で指し、
「お前は、この世で一番大切なものをなくす。そして、一生後悔するのだ」
 地を這うようなしゃがれ声に、鳥乙女は背中がぞっと寒くなりました。しかし、予言をされた当人は平気な顔をしています。
 一刻も早くその場から離れようと、鳥乙女は予言者と睨み合っているルークを引っ張りました。
(なんて恐ろしい人なの。)
 立ち去る背中に妙な視線を感じて、鳥乙女はそっと振り返りました。
「あっ!」
 予言者の持っている目玉が、ぎょろりとこちらを見ているのです。
 すぐに視線をはずしましたが、粘りつくような悪寒がいつまでも取れないでいました。

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