花の根

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地鳴りがする。土煙を上げ巨体が走り抜けていく。
「まったく、騒々しいではないか」
苦々しく顔をゆがめて人間が言う。それから、隣で眠っている相棒を肘で突き起こした。
相棒は大きく裂けた口を開きあくびすると、ぐるると低くうなった。
「夜明けまで時間がある」
なぜ起こすのかと相棒は聞いた。黄色の瞳には苛立ちが見える。
人間はそれには答えず、まだ沈んだままの相棒の背中に乗るとその横腹を蹴った。やれやれと言うように、相棒はゆっくりと上体を起こし立ち上がった。

東へ向う。月がついてくる空をよそ見している人間に、相棒は鼻息で抗議した。
地鳴りが近づいてくる。それを追っているというのが正しい。相棒は足を速めた。
地鳴りが止まった。代わりにうなり声が重なり聞こえる。
人間は相棒にまたがったまま、蠢きあう巨体を指さした。
「何をしていると思う?」
「狩りだ」
「何を狩っている」
「人間だ」
「それだけ?」
「そう。それと家畜」
背の高い岩の上から、地鳴りの正体の作業を観察する。逆光になりその姿は黒い影しか見えない。
「なぜ人間を食うのだと思う?」
「沢山いるから。栄養もある」
「血は生臭いぞ」
「その方が興奮する」
相棒は目をぎらつかせた。本能がちらつき落ち着きがない。人間はふうとため息をついた。
一通りの授業を終え、人間と相棒はもと来た道を引き返す。もう月はついてこない。

寝床に戻ると、人間は布袋から干し肉を取り出し相棒に手渡した。
腹を満たした相棒は体を沈めると、じゃれるように肉厚な舌で人間の頬を舐めた。自分とは違う柔らかな肉の感触が好きだった。
「いやしかし、愚かなことをしたかな」
人間はしなやかな白い指で相棒の固い鱗肌を撫でた。相棒はすでに寝息を立て、邪魔をされた分の眠りを楽しんでいる。

竜は長い夢を見ていた。
自分が人間と暮らして時のことを途切れ途切れに辿っていた。しかしどんなに夢を繰り返しても最後には辿りつかなかった。
強く風が吹いた。一匹の竜が出先から戻ってきたのだ。一回り小さいその竜は地上に降り立つと、眠っていた竜にそっと寄り添った。
月明かりで竜の鱗が光り雪のように白く輝くと、眠っていた竜は薄く瞼を開けた。
「夢を見ていた」
夢から覚めた竜は体を起こすと、寄り添う相棒の細い首に頭を摺り寄せた。芳しい雌の匂いがした。
「何の夢を?」
「人間の夢。あれは一体どうしたのだったかと……」
「忘れてしまったのか?」
「忘れてしまった」
小さな竜はその言葉に呆れたように笑った。
「隣にいるではないか」
「隣に……」
竜は言葉を途切れさせ、記憶を辿った。それから、ああと小さく呟いた。
「そうであった」
記憶の最後に辿り着いた後、竜は相棒に愛を囁いた。

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